経絡治療の本治法では手足の要穴に鍼をします。それは肩こりでも、腰痛でも、中耳炎でも、うつ病でも変わりません。では、手足の要穴に鍼をした際、遠隔部である肩や腰の筋緊張はどのように変化しているのでしょう。

経絡治療は、病の本態である「証」に基づいて本治法を行うことで症状を寛解させるとされています。これが事実であれば、「肩こり」が主訴の患者は本治法後に肩の筋緊張低下が起こるはずです。

このような疑問に基づき、西出と谷中が検証を行いました。

なお本記事は、「第59回 日本理学療法学会(2010)」での発表内容に若干の加筆修正を行ったものです。学会の性質上、経絡治療を行っていない鍼灸マッサージ師や柔道整復師を対象にしています。

 

はじめに

経絡治療とは、望診・聞診・問診・切診からなる四診法により病変を経絡の虚実として捉え、その主たる変動経絡を主証として証(あかし)を立て、これに基づいて経穴に鍼灸を用いて補瀉することによって気血を調整し、生命力の強化を図る鍼灸治療の手法の一つである。経絡治療には本治法と標治法の二段階があり、まず手足の要穴を用いて経絡を調整する本治法を行い、次いで病症部位やその周辺の気血にアプローチする標治法を行う。
近年、頚肩部の筋緊張に対する鍼治療の効果を筋硬度の変化で評価した報告を散見するようになったが、鍼治療の刺鍼部位は頚肩部局所や耳介であり、経絡治療の理論に基づき手足の要穴へ刺鍼した報告は見当たらない。
そこで今回、経絡治療が肩上部の筋緊張に及ぼす効果を筋硬度の変化として数値的に捉えることを目的に、肩上部の筋緊張を訴える症例に対して証に基づいた本治法を行った群と、証を立てた後で非経穴部位に刺鍼した群とで肩井穴部の筋硬度の変化を測定・比較し、一定の知見を得たので若干の考察を加えて報告する。

 

対象

対象は肩上部に筋緊張の自覚症状を認める男女。
本治法群10名。うち男性1名、女性9名、平均年齢は48,3歳(19~78歳)。非経穴群10名。うち男性4名、女性6名、平均年齢は44,2歳(27~65歳)であった。

 

方法

まず両大腿部に手を置いた座位にて肩井穴部の筋硬度を筋硬度計(TRY-ALL社製 アラーム付きNEUTONE TDM-NA1)を用いて測定した。次に四診法により証を決定し、仰臥位にて本治法群には本治法を、非経穴群には上下肢の非経穴部(3~5箇所)に接触程度の刺鍼を行い、再び座位にて肩井穴部の筋硬度を測定した。測定側は患側とし、左右で自覚症状に差のない場合は筋硬度の高い側を採用した。
本治法の手法は東洋はり医学会の方式で行った。陰主陽従・補法優先の原則に随い、陰経の虚に対する補法は基本の7穴を用いた(表1)。陰経の実に対する処置は脉状に応じて陰経の補瀉、あるいは陽経の補法を行った。
陽経の補法は原穴を、瀉法は絡穴を用いた。

表1 陰経基本7穴

 

結果

測定の結果、本治法群においては施術前後で筋硬度が低下9名、不変0名、上昇1名となり、施術後優位に筋硬度が低下した。一方非経穴群においては低下4名、不変4名、上昇1名となり、施術前後で優位な差はなかった(表2)。

表2 結果

四診法により決定した証は肝虚証、肝虚脾虚証、肝虚肺虚証、肝虚脾実証、脾虚腎虚証、肺虚証、腎虚証、腎虚脾虚証、腎虚脾実証の9種類であった。

 

考察

今回、本治法群の中に筋硬度の上昇した事例が見られたが、この原因としては証の誤りのほか、取穴や手技が不的確であった可能性が挙げられる。特に証が誤っていた場合、症状が増悪したり新たな経の症状が出現したり、あるいは治療期間が長引いたりする。本事例は当初腎虚証で本治法を行ったが、病症を検討した結果、腎虚脾実証である可能性が高いことが分かった。新たな症状などの出現はなかったものの、実経へのアプローチを行わなかったため、筋硬度が低下しなかったものと思われる。
以上のように経絡治療では、四診法により正確な証を立てた上で、的確な手技を行うことにより良好な施術効果が得られる。これには経絡治療的診断・治療への熟練が必要である。
本報告における施術者2名は臨床で東洋はり医学会の方式の経絡治療を始めて5年以内であった。本治法群において優位に筋硬度が低下したのは証が合致していた為と思われるが、熟練者であれば陰経の補法において主要な7穴以外に病症的な観点から選穴したり、瀉法ならば邪の脉状に応じていくつかの手法を使い分けたりすることが出来るため、さらに筋硬度が低下した可能性も考えられる。熟練者による施術効果についても検証が必要である。
同様に非経穴群においても、熟練者が適切な速度・強さ・方向で切経した場合とそうでない者が切経した場合とで、身体に及ぼす影響に差が無いとは言えない。一定時間の安静臥位など、施術者の熟練度に左右されない標本も比較対象として必要であったと思われる。

 

まとめ

1.経絡治療は証に基づいて要穴を運用することで遠隔部の筋緊張を緩和することが出来ると考えられる。
2.経絡治療の熟練度による施術効果の差を検討する必要があると思われる。

 

引用文献
1.太田喜穂子,矢野忠:頚肩部の筋緊張に対する鍼刺激の効果―筋硬度、深部血流量および筋電図を指標として―,日温気物医誌,68(2),2005.
2.伏間恒明,他:肩こりにおける筋硬度の評価,(社)東洋療法学校協会学会誌,第28号:54-57,2004.
3.吉田宗平,他:耳介への微小金属粒子貼付刺激による“肩こり”緩和効果について,関西医療大学紀要,Vol.1:52-57,2007.

参考文献
1.古後晴基,他:筋硬度の定量化ならびに筋硬結における筋疼痛と筋硬度の関連性,理学療法学,25(1):41-44,2010.
2.福島弘道,経絡治療学原論,上巻,東洋
はり医学会事務局,1989.
3.福島弘道,経絡治療学原論,下巻,東洋はり医学会事務局,1994.

 

【担当・問い合わせ先】

西出隆彦 じねん堂はり灸治療院 059-256-5110

谷中布紀子 ふきのとう鍼灸院

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